日本国内で累計1,500万ダウンロードを記録するなど、人気のマンガアプリ「comico」。
マンガアプリ黎明期から、業界を牽引し「アプリでマンガを読む」という文化を作ってきたサービスと言っても過言ではありません。今やcomicoで人気が出て、単行本化や映像化されている作品も多くあります。
今回はそんなcomicoが、いかに作品を単行本や映像作品に展開してきたのか、その「マルチメディア戦略」や、他のマンガアプリに先駆けて海外展開している「海外戦略」についてインタビューしてきました。また、2016年11月に行った一部有料化へのリニューアルや、兄弟アプリである「comico PLUS」との違いなどについても聞きました。
既にcomicoファンの方も、これからcomicoを使おうかと考えている方も、comicoのことを知る参考にしてください。
comicoとは?
インタビューの内容に入る前に、まずは「comico」がどんなアプリなのかを紹介していきます。
フルカラーで縦スクロールマンガが読めるアプリ
comicoは、NHN comico㈱が運営するマンガアプリで、マンガアプリ黎明期の2013年10月にリリースされました。
日本では当時、まだ馴染みのなかったスマホの特性を活かした「縦スクロールマンガ」をフルカラーで提供することをコンセプトにスタートしました。「スクロールマンガ」とは、スマホを縦にスクロールさせながら読める漫画のスタイルです。公式の作家が書いた、「公式連載」の他、一般投稿による「チャレンジ/ベストチャレンジ」という場も提供しています。
©澄川ボルボックス/comico
2017年6月の「ストア」の開設により、それまでのオリジナル作品に加え、他出版社の人気作品も読めるようになりました。ストアの作品に関しては、「縦読み」か「横読み」が選べ、「モノクロ作品」も取り扱っています。
comicoは2016年11月に一部有料化モデルを導入しました。無料で手に入る「レンタル券」を利用すれば、好きなマンガを8日間楽しめるほか、「応援ポイント」を購入する事で期限なく読むことが可能となります。また、各作品にはお試し読みとなる「無料話」が設けられていますので、冒頭の「無料話」を読んで、中身を立ち読みして頂く事も可能です。
実際にどんな作品が読めるの?
近年、comico作品の中にはアニメ化や実写映画化などにより、アプリの枠を超え人気となる作品も増えてきました。中にはcomico作品とは知らずにアニメや映画を観たことがある人もいるかもしれません。ここではcomicoの人気作品をいくつか紹介していきます。
ReLIFE
ReLIFEは、comicoのサービス開始当初からの人気作で、初のマルチメディア化を達成した作品でもあります。2014年8月に単行本化、2016年7月にアニメ化、2016年9月に舞台化、2017年4月には実写映画化も果たすなど、comicoを代表する作品とも言えます。就活に苦しむ主人公が、謎の組織による社会復帰プログラム「リライフ」によって、現役高校生と共に1年間高校生活を送る様は、様々な気づきを与えてくれます。
傷だらけの悪魔
傷だらけの悪魔は、2014年5月に連載を始めた作品で、2015年10月に単行本化、2017年2月には実写映画化も果たしています。東京から田舎に引っ越した主人公が、転校先で出会ったのはかつていじめていた同級生。そこから主人公には地獄のようないじめの日々が待っています。いつの時代も取り上げられる「いじめ問題」について、何が正義なのかネット上で波紋を呼んだ話題作です。
こえ恋
こえ恋は、comicoにて2015年5月から連載をはじめ、2016年7月~9月までテレビ東京で実写ドラマも放送されていた作品。常に紙袋をかぶって生活をする男子高校生と、彼に恋する女子高生の奇妙な恋愛ストーリーです。ドラマでは紙袋を被った男子高生の役を、「おそ松さん」のおそ松などを務めた人気声優が演じたことでも話題になりました。
縦読み漫画のメリット・デメリット
comicoがどんなサービスか分かってもらったところで、インタビューに入っていきます。インタビューに対応して頂いたのは、Creator’s Supportチームのプロデューサーをしている大藤 充彦(おおとう みつひこ)さんです。将来の人気マンガ家の発掘を目的としたコンテストの企画など、さまざまな業務を行なっているそうです。
まずはcomicoの代名詞といっていい「縦スクロールマンガ」について、従来のマンガと比べてのメリット・デメリットについて聞いてみました。
紙ではできない新しい表現方法
Q.comicoさんといえば縦スクロールマンガですが、作家さん、ユーザーさんにとってのメリットはどのような点だと考えていますか?
大藤:縦スクロールマンガの最大のメリットは、読者が他のスマホのコンテンツ消費体験と同じ操作、つまり片手操作でマンガを読み進めていける点です。これが、読者に読みやすい環境を提供する事に繋がっています。連載中の作品の多くが、スマホで読みやすい文字の大きさを意識したり、縦スクロールの利点を活かした間の取り方をしたりしています。
これは、時に表現の幅を拡げることにも繋がり、中には見開きタイプのマンガでは表現できないような、縦に長いコマ割を使っている作品も産まれています。また、紙に描くのと違い、自由なボリュームで描くことができるので、作家さんにとって表現の自由度が広がったとも言えるのではないかと思います。
ユーザーの方にとっては、満員電車や中や、ベッドで寝転がって読むなど、いろんなシチュエーションでも読みやすい点が挙げられると思います。縦スクロールマンガはページごとにめくる必要がないので、次のシーンにストレスなく進められます。
デメリットは紙媒体への移行コスト
Q.逆にデメリットに関してはどうですか?
大藤:確かに表現上の制約などは出てきますが、私たちとしてはあまりネガティブには捉えていません。とはいえ、あえて挙げるとしたら、紙のマンガへの媒体移行に手間がかかる点でしょうか。例えば単行本化する際、もともと縦スクロールのマンガを、見開きの従来の形式に作り直すのは、なかなか手間の掛かる作業となります。
従来とは異なる作品作り
Q.メリット・デメリット関係なく、従来の漫画と縦スクロールマンガで違うところはどんなところですか?
大藤:一番違うのはコマ割りの仕方です。見開きマンガのコマ割りでは、右上のコマから左下のコマへと視線の流れを意識しながら作成してゆく必要がありますが、縦スクロールは縦の視線を意識します。ここが最も異なる点ではないかと思います。
Q.作り方にも違いはあるんですか?
大藤:物語を考えて、絵を描いて、という基本的な作り方にはあまり違いはないと思います。どちらかというと、見開きタイプか縦スクロールかというより、マンガ家さんによっての違いが大きいと感じています。縦スクロールマンガは確かにWebならではの表現ですが、全てデジタル一辺倒かというとそんな作家さんばかりではなく、下書きを紙で行うマンガ家さんもいます。そんな風に、マンガ家さんによって作り方はそれぞれなんです。
comicoのマルチメディア戦略
リリース当初、完全無料だったcomicoは、作品を単行本や映画など、マルチメディア化して収益化する「IPモデル」をとっていました。今回はそのマルチメディア戦略についても話を聞いてみました。
サービス開始から1年足らずで実現したコミック化
Q.初めて単行本化を実現するまでに、どんな苦労がありましたか?
大藤:comicoで初めて単行本化したのは、(前述の)「ReLIFE」という当初からのcomicoの看板作品です。第1巻の発売は、サービス開始から10ヵ月後の2014年の8月でした。comicoのサービス拡大のための展開のひとつとして当初より単行本化への思いはあったのですが、当初はIT業界の人間ばかりが集まったチームだったので、単行本化の基準や、販売などのノウハウもなく、いろいろ苦労しました。その後は、出版経験のあるメンバーも加わり、外部とも提携しながら形にしていきました。
Q.単行本化して、それから映像化する流れっていうのは最初から組まれていたんですか?
大藤:なんとなく、単行本化して人気が出たら映像化ができたら良いね、というイメージはあったのですが、詳細は全然固まっていませんでした。
Q.マルチメディア化する上での成功の秘訣ってありますか?
大藤:マルチメディア化する上で心がけているのは、アニメ化するにしても実写化するにしても、原作の良さを引きだしつつ、とらわれすぎないようにする点です。マンガだから映える表現もありますし、アニメならではの表現もあるため、それぞれの媒体で魅力が最大化するような表現となる様、心がけています。
そのためには、マンガ家さんとのコミュニケーションが重要になってきます。お互いにイメージがずれないように、密にコミュニケーションをとりながら、意思の疎通を図るようにしています。
無料マンガの単行本が売れるワケ
Q.以前、comicoは完全無料だったわけですが、無料でも読める作品が、どうして単行本で売れているのでしょうか?
大藤:いろいろ理由はあると思いますが、一つは自分の好きな作品を本として持っておきたいという所有欲。そして単行本化されると、アプリ版の縦構成から従来の紙のマンガの横組み、いわゆる見開き形式に変わりますので、アプリで読んでいた読者はまた別の見方、楽しみ方ができる。その点も大きいと思います。
私たちも、単行本を作る際にアプリにはないエピソードを入れたり、カバーを工夫したりと、アプリ版にはない要素、特典をつけたりしています。単行本で初めて作品を知ったお客様はもちろん、アプリからファンだったお客様も単行本が楽しめる工夫は常に行っています。
世界に羽ばたくcomicoの海外戦略
日本のマンガアプリでは珍しく、海外展開にも積極的に力を入れているcomico。日本文化であるマンガが海外でどれほど通用しているのか話を聞いてみました。
海外展開のポイント
Q.comicoは台湾・韓国・タイにも進出し、海外展開にも力を入れているようですが、日本での戦略は海外でも通用するのですか?
大藤:概ね同様の戦略で展開をしていますが、単行本を展開する場合などは少し状況が変わります。アプリサービスや映像のようにオンラインでお客様に届けられるものとはさておき、単行本のように物流が必要な商品は、国ごとの物流インフラの発展状況などに左右される事が多いようです。
Q.ヒットする作品に関してお国柄が出ることはあるのですか?
大藤:もちろん、それはあります。しかし、一方で、一つの国でヒットした作品が、他の国でもヒットする傾向なども見えてきています。アジア圏は、嗜好の方向性が似ているというのも影響しているのだと思います。comicoでも、各国で現地のマンガ家さんが作品を作っていますが、自国でのヒットを狙うことで、自然とグローバルでのヒットにつなげていける流れが作れると一番良いな、と考えています。
海外戦略で直面した課題
Q.海外展開を成功させるために会社として心がけていることはありますか?
大藤:海外はビジネスのスピードが速いので、弊社もスピード感を出していけるように海外戦略の組織構造を大きく変えてチャレンジをする事にしました。
海外展開を始めて間もないころは、各拠点がそれぞれ意思決定をしていたのですが、それだと、案件の推進に時間が掛かってしまう事などがありました。
例えば、台湾で「ある作品」を単行本化したいといった相談があったとします。以前は、台湾comicoがどうするかを決める場合もあったり、日本側に確認する事もあったりと、意思決定の経路が確立されていませんでした。ですので、その都度、日本と台湾で「進め方を決める」という事にもエネルギーと時間が使われ、結果的にロスが生じてしまっていました。
そこで、本年より世界中のコンテンツをマネジメントする「グローバルヘッドクォーターチーム」を日本に置くことで、全体最適に図りました。世界中の全作品に関する意思決定を一元管理することで、それまで起きていたような各国での間のロスをなくしました。世界規模でのコンテンツマネジメント体制を変えることで、海外展開を加速させることができたのではないかと考えています。
「comico」と「comico PLUS」の違い
Q.comicoには別ブランドで「comico PLUS」がありますが、これはどういう違いがあるのですか?
大藤:狙いとしては、全年齢向けのcomicoに対して、青年誌も作れたらいいね、という話から始まったんです。comicoの対象年齢が12歳以上なのに対して、comico PLUSの対象年齢は17歳以上、サービスのキャッチコピーは「大人向けcomico」でした。comico PLUSはジャンルも豊富で、大人向け恋愛や、軽めのBL(ボーイズラブ)、ギャンブルといった作品も含まれています。
Q.comicoとcomico PLUSにすみわけすることでビジネス的なメリットはあったんですか?
comicoに大人向けの作品を掲載しないことで、子供でも安心して利用できるアプリにすることができました。親御さんにしても子供に使わせやすい、心配のいらないアプリにできたことで幅広いユーザーの獲得に繋がったと思います。
Q.comico PLUSはアプリ版には載せられない作品もあるんじゃないですか?
大藤:そうですね。comico PLUSの作品の中には、アプリには掲載できないより刺激的な作品群もあり、そういった作品の受け皿として用意しているのが、ブラウザ版のcomico PLUSです。そういった作品を楽しみたい人はブラウザ版を利用した方がいいかもしれませんね。
気になるフリーミアムモデル化(一部有料化)の経緯。その影響は?
Q.2016年11月に完全無料から、課金制度を入れてフリーミアムモデル化しましたが、どのような経緯があったんですか?
大藤:一番の狙いは収益の柱を増やして、より作家さんへの還元を増やしていきたいという点でした。当初は、単行本化や映像化などのIP展開を収益の柱としていて、これ一本で行っていたのですが、このモデルのみだと、想定していた以上に収益化に時間がかかってしまうことがわかったのです。
Q.一部有料化によって大きな影響もあったと思いますが、約1年たった今はどうですか?
大藤:フリーミアム化によって、当初はアクティブユーザーが若干減るなどの影響はあったものの、現在は作品の力で徐々に戻ってきているような状況です。
Q.有料化によるメリットなどはありますか?
大藤:おかげさまで、当初の目的である、作家さんへの還元施策を徐々に開始できつつあります。それまでと違い、マルチメディア展開の話が始まる前から作家さんに還元できるようになったのは大きいと思います。
また、作家さんにも、良い意味での緊張感が産まれている事例も出てきています。とある作家さんは、収益化していくということは作品の質を向上させていかなければならないということでもあり、より気を引き締めて作っていかないといけないとおっしゃっています。
インタビューは以上となります。ありがとうございました。
新しいチャレンジを繰り返すcomicoに今後も注目
今では数多くリリースされているマンガアプリですが、その先駆けとなったcomicoは、今でもオンリーワンなアプリとして存在感を出しています。
いち早く日本に縦スクロールマンガの文化を持ち込み、無料でマンガを読めるという常識を作り出しました。また、現在は200作近いオリジナル作品を連載中で、オリジナル中心のそのコンセプトはマンガ家さんにとっても、新しいキャリアの道を作り出したと言えるでしょう。
また、業界の中でも先んじて海外展開を始め、「日本のcomico」から「世界のcomico」へとなるべくチャレンジしています。
作品の魅力はもちろんのこと、今までにない新しい取り組みをしていくことも、comicoの魅力と言えるのではないでしょうか。今後もcomicoの新しいチャレンジに目が離せません。