2017年9月14日に渋谷で「Growth Hack Talks #6 秋だ、読書だ! 漫画アプリ特集」が開催されたので話を聞きにいってきました。イベントでは下記の4名が登壇し、それぞれのサービスのグロースハック(成長要因)について語ってくれました。
- 【マンガボックス】㈱DeNA IPプラットフォーム事業部長兼マンガボックス編集長 安江亮太氏
- 【comico】NHN comico㈱ 事業プロデューサー 大藤充彦氏
- 【コミックエス】 ㈱フーモア取締役 斉藤隼大氏
- 【MANGA ZERO】㈱Nagisa執行役員 樋田顕氏
イベントの最後には主催のRepro㈱代表・平田祐介氏がモデレーターを務め、漫画アプリ業界についてのディスカッションが行われ、こちらも大いに盛り上がっていました。
今回はそんなイベントの一部始終をまとめました。漫画アプリ事業だけでなく、アプリビジネスに携わっている人なら参考になることも多いと思います。
Growth Hack Talksとは?
Growth Hack Talksは、アプリの成長支援ツール「Repro」をリリースしているRepro株式会社(リプロ)が主催しているミートアップ。アプリのディレクター・マーケター・エンジニアなど、アプリの成長をミッションとする人たちがグロースハックのノウハウをシェアし合うイベントです。
第6回目となる今回のテーマは「秋だ、読書だ! 漫画アプリ特集 !」。アプリ業界で今最も勢いのあるが漫画アプリ。大手出版社からITベンチャーまで多くの企業が群雄割拠している市場で、確実に成長を遂げている4社のアプリ代表者がその成長要因を語ってくれました。
【マンガボックス】マネタイズの変遷
プレゼンの内容に入る前に、簡単にマンガボックスの説明をします。マンガボックスは、(株)DeNAが運営している漫画アプリで、2014年にサービスをスタートさせました。一話読むと別の作品、一話読むと別の作品という風に、漫画雑誌のように読めるのが特徴。それぞれの作品の1話目と直近で更新された数話が読めます。マンガボックス発の作品「恋と嘘」は、単行本化に留まらず、2017年10月には実写化された映画が公開されます。
まず登壇したのは、㈱DeNAの安江氏。サービスのフェーズごとによるマネタイズ手法についてプレゼンしてもらいました。
次世代のIPを作るアプリ「マンガボックス」
安江:まずはマンガボックスがどんなサービスかというと、「次世代のIP(知的財産権)を作る漫画アプリ」として、既存の人気作の他、オリジナル作品も読めるアプリです。2014年にサービスを開始させたのですが、本日は、サービス開始から今日まで、どのようにマネタイズしてきたかという話をしていきます。
これまでの流れを4つに区切ると、ざっと「連載マネタイズ時代」「広告マネタイズ時代」「ストア時代」「コンテンツ販売時代」に分けられます。各フェーズごとに説明していきます。
連載マネタイズ時代
サービスローンチ直後はマネタイズを考えず、サービスの可能性を模索していました。
その後、先読み課金など、毎日更新されるコンテンツによって収益化を図っていて、人気作ともなると1話の更新で30万円の売上を上げることもありました。しかし、連載できる作品に限りがある上、先読みに課金してくれるユーザーは一部の熱狂的なファンに限られるため、一定以上の売上からのスケールが難しい状況でしたね。
広告マネタイズ時代
そこで次にチャレンジしたのが広告マネタイズ。一時はマンガボックスは広告が多いという声もありましたが、複数の広告手法にチャレンジしました。広告モデルによって急激に売上を伸ばすことはできたのですが、広告の営業とチューニングに工数がかかるため、思うほど利益率が上がらないと課題もあったんです。その上、PVに依存して瞬間的に売上が上がるものの、継続的な売上に結びつかないという課題もありました。
電子コミック販売時代
その後、本格的に着手したのが電子コミック販売です。多様なコンテンツの掲載を開始し、それらをコンテンツとして販売しました。その頃に急激に伸びていた電子書籍市場に乗っかり、マンガボックスの電子コミックの売上も右肩上がりに伸びていきます。広告と違い、瞬間的な売上はなく、継続的に売上にも繋がるものでした。しかし、順調に売上が伸びていく中で、「俺らって次世代のIPを作り出す集団だよね」という疑問を持つようになったんです。
マルチメディア時代
そしてその頃から改めて着手し始めたのが、IPを広めること。ちょうどマンガボックスオリジナル作品の「恋と嘘」が、2014年にダ・ヴィンチとniconicoが主催する「本にして欲しいWebマンガ大賞」に選ばれました。
その影響か、単行本も累計140万部以上売れ、アニメ化・実写映画化も果たしています。さらに「ホリデイラブ」という作品も単行本で累計40万部以上売れたんです。このようにマンガボックス発の作品をマルチメディア化させていくことが今の状況です。
今年の夏もマンガボックスから8本の新連載が始まったので、こちらもぜひ楽しんでください。
【comico】グローバル展開における課題と施策
comicoは、NHN comico(株)が運営している漫画アプリで、2013年にサービスをスタートさせました。掲載作品のすべてがオリジナル作品で、スマホの特性を活かした縦読みマンガです。サービス開始から2016年11月末までは完全無料で全作品が閲覧でき、代表作ともいえる「ReLIFE(リライフ)」は単行本化に留まらず、実写映画化するなど、マルチメディア化に成功しています。
登壇したのはcomicoの事業プロデューサー 大藤(おおとう)氏。漫画アプリでも率先して海外進出に注力しているcomicoのグローバル展開における戦略についてプレゼンしてもらいました。
少年誌「comico」と青年誌「comico PLUS」
大藤:まずは「comico」がどんなサービスなのか紹介させてもらいますが、2013年に始めた少年誌「comico」と、2015年に始めた青年誌「comico PLUS」という2つのサービスを展開しています。comico PLUSは青年誌ということもあり、成人向けの作品も含んでいます。comicoはサービス開始時は完全無料でしたが、2016年11月末に応援ポイントでのみ閲覧が可能な先読み機能を実装して「基本無料」のサービスにリニューアルしました。ユーザーの20%が週7日でアプリを開く、ユーザーロイヤリティの高いアプリです。
アジア中心に進出しているcomicoの海外戦略
今回は海外展開のこれまでの歩みを紹介させてもらいます。2014年に台湾・韓国、2016年にタイに進出しました。中国では、現地プラットフォームと提携し、形を変えてサービス展開しています。
これまでサービスを展開してきた台湾、韓国、タイでは既存の作品を楽しんでもらうと共に、実は現地発の漫画もヒットしているんです。各国によって人気作品のランキングは違いますが、実は上位7位の半分ほどは日本発以外の作品がランクインしています。
中国には既にマンガアプリの大きな市場が出来上がっており、TOP4のマンガアプリのMAUは日本のNo1よりも高いです。中国ではcomicoの作品だけでなく、実績のある中国の作品の導入も検討しています。
グローバルマネジメント体制の改善
これまでアジアを中心に海外展開してきたcomicoですが、海外進出における課題もありました。2016年までは、海外の作品を書籍化する際には各国の拠点がそれぞれに意思決定を行ってきました。各国でのフットワークは軽かったのですが、部分最適となっている場合も多々ありました。
そこでグローバルのマネジメント体制を変え、日本をヘッドクオーターとして、世界全拠点のコンテンツマネジメントを意思決定する方針に変更したのです。全グローバルIPに関しての意思決定を一元管理することで、グローバルビジネスを加速させることでができました。
また海外市場での成功法則も掴めてきて、各ローカルでヒットした作品が他国でもヒットする確率が高いことが分かってきました。しかし、国ごとでのリリースにタイムラグがあると海賊版が出回るリスクが高いため、今ではヒットした作品は世界同時一斉連載をすることで、問題を解決しました。
もし、コンテンツの海外展開を検討している企業様がいらっしゃいましたら、是非comicoにご相談ください。
【コミックエス】女性特化マンガアプリのアレコレ
コミックエスは、イラスト制作などを手掛ける(株)フーモアの女性向けレーベル(株)ディアリードが運営しているマンガアプリで、2016年12月にサービスをスタートしました。少女漫画・恋愛漫画に特化し、完全無料で全作品が読めます。既存作品だけでなく、女性向けスマホゲームをコミカライズしたオリジナル作品も掲載しています。
登壇したのは㈱フーモアの取締役 斉藤氏。ユーザーの大半を無料で集客するコミックエスのヒミツや、広告マネタイズの方法についてオープンに語ってくれました。
少女漫画・恋愛漫画に特化したコミックエス
斉藤:まずは「コミックエス」がどんなアプリなのか紹介させてもらいます。「コミックエス」は業界でも珍しい女性向けの漫画アプリで、課金なしの完全広告モデルです。絶版漫画の他に自社オリジナル作品も掲載しており、ソーシャルゲームのコミカライズ作品なども掲載しています。
今日お話しするのは、累計110万ダウンロードのうち75万ダウンロードをアプリストア内でのオーガニック経由、つまりお金をかけずに集客したコミックエスのユーザー獲得術が一つ。もう一つは広告モデルにこだわっているコミックエスだからこその広告マネタイズのハウツーを紹介していきます。
お金をかけないASOによるユーザー獲得術
まずはアプリのユーザー獲得術ですが、ASO(アプリストアでの検索上位最適化)の成果を出す上で、経験上大切だと思っているのは「タイトル」「レビュー評価」です。まずタイトルに関してですが、タイトルに狙っているワードを入れないとなかなか上位に表示されません。”マンガ”で検索順位を上げるには、「マンガUP」や「LINEマンガ」のように全体を短くして占有率を上げるのが一つの手です。また、ワードを2回繰り返す方法もありますが、現在ではリジェクトされるリスクもあるので気をつけましょう。
レビューの評価もとても大事で、特に直近アップデートのレビュー評価は超重要です。アプリ内でレビューを求めるサービスも多いですが、コミックエスの場合は「満足しているのでレビューする」以外に、「不満があるのでレビューしない」「問題を報告する」という欄を作ることで、アプリを満足してもらった人にはレビューをしてもらい、不満を持っている人はレビューしない、または問題を報告してもらえるようにしています。近々Appleからレビューを促すポップアップが禁止されるそうですが、レビューの数も大事なので良いレビューをしてもらう施策がより重要になってきます。
コミックエスが完全広告モデルにこだわる3つの理由
コミックエスは課金なしの完全広告モデルですが、広告モデルにこだわっているのは理由があります。
1つ目が乙女ゲームへの送客母体として考えているため、ハードルをさげたいということ。ディアリードではコミックエスの他に乙女ゲームをリリースしており、コミックエスから送客する仕組みを作っています。
2つ目は将来的に海外展開したいので課金には頼りたくないということ。日本は世界的にみて、飛びぬけてアプリに課金する国ですが、世界の国々では日本ほどアプリに課金することはありません。
3つ目が女性向けマンガ作品のコンテンツパワーの弱さがあげられます。一般的に女性向けのマンガは男性向けのマンガに比べて、課金されない傾向があるので。
広告は動画が中心
コミックエスの広告収益の内訳なのですが、そのほとんどは動画系の広告によるものです。アプリ内に画像が多いマンガアプリでは、静止画のバナーは目立たずスルーされているためです。そして収益の70%がマンガを読んでいる最中のアクションによるものです。トップページや検索ページではマンガを探すのに夢中であまり広告を見ないのです。つまり、ユーザーにいかにたくさんのマンガを読んで楽しんでもらうかが収益アップに繋がります。
コミックエスでは「DLのインフィールド動画」「読中バナー」「読了動画広告」を利用しています。読了後の動画広告も嫌われると思いがちですが、YouTubeの動画広告も最初は自分自身も良い印象を持っていませんが慣れてしまえば問題なく、今では順調に収益を上げています。
【マンガZERO】ユーザーがサービスに定着するまでのUXフローを分解した有効なグロースハック例
マンガZEROは、Nagisa(株)が運営しているマンガアプリで、2015年にサービスをスタートさせました。非常に見やすいトップページが特徴的で、朝8時と夜8時に4枚ずつ配られる無料チケットで、1日8話まで無料で読めます。2017年にはオリジナルの「月刊ジヘン」をオンライン上で創刊するなど、独自の成長を遂げています。
最後に登壇したのは㈱Nagisaの執行役員 樋田(とよだ)さんです。アプリをグロースさせるために行ってきた施策を、かなり具体的に紹介してくれました。
1000作以上のマンガが基本無料で読めるマンガZERO
樋田:まず「マンガZERO」がどんなサービスか紹介すると、1000作品以上のマンガをログインボーナスで無料で立ち読みできるマンガアプリです。オリジナルの青年マンガレーベル「ジヘン」も展開しており、ジャンルを問わず幅広く作品を掲載しています。現在では月間20億PVを越えるプラットフォームに成長しています。
今回はマンガアプリにおけるUXフローの重要性と、実際にNagisaで行ってきたグロースハック例を紹介していきます。
サービスのグロースに必要な「継続率」
まず、NagisaではKPIを「DL数」「継続率」「ARPU(1契約あたりの売上)」としていますが、その中でもメインにしているのが継続率です。なぜなら継続率は「サービスの継続的な成長に必須」で、「ユーザーの本質的な満足度を示す指標」なので重要度が高いためです。しかし、一方で「アプリを習慣的に利用させることは大変」で、「ブラックボックスで捉えづらい指標」であることから、ARPUを上げるのは難易度が高いです。
そして継続率を上げる前にUXフローをしっかり整理する必要があります。マンガアプリのUXフローを考える場合には「読書前」「読書中」「読書後」にしっかり分けて考えなければいけません。
「読書前」は作品を手に取る前なので一番ハードルが高いです。ユーザーが”知らない作品”を前提として、どんな”出会い”が最適か考える必要があります。「読書中」は満足度が高ければ継続しますし、低ければ即離脱します。どちらの場合も想定して、スムーズなユーザー体験を提供できるように考えます。「読書後」は読書中に近いんですが、満足度の度合いによって行動が変わります。
いずれにせよ”次のアクション”に繋がるように仕掛けることが大切です。このようにUXを分解して考えることで、各タイミングで継続率を上げるための最適な手法が出てきます。
ここからはNagisaが実際に行ってきた施策をGood事例とBad事例にわけて紹介していきます。
A/Bテストで翌日継続率を改善
まず紹介するのは、読書前の「チュートリアルの訴求A/Bテスト」です。様々なパターンのチュートリアルをリアルタイムでA/Bテストを行いました。その結果、最も結果が良かったのが読者のコメントが表示される「読者コメント訴求」です。ユーザーの翌日継続率が圧倒的に高いという結果が出ました。だたし、その後のユーザー行動が小さいので一長一短ではありますが。
「雑誌風まとめ読み機能」では成功&失敗の両方を経験
次に紹介するのは「雑誌風まとめ読み機能」です。1話読むと次の作品、1話読むと次の作品という風に紙の雑誌のように漫画が楽しめる機能です。これにより1ユーザーあたりの作品読者数や最終ページ到達率、チケット消費数が121%改善し「多読体験」が促進されました。
次は悪い事例なのですが、「チュートリアル×雑誌風まとめ読み機能」です。作品の詳細がズラッと並ぶページを作りましたが、こちらは結果が出ず、継続率が△15~20%になりすぐ止めました。リッチすぎる&情報が多すぎて嫌われるという教訓を得ました。正直、自分発のアイディアで恥ずかしい結果になったので、消したい思い出の一つです。
プッシュ通知を工夫し、開封率が120%改善
最後に紹介するのが「ユーザーの行動の結果として送るプッシュ通知」です。例えば、連載作品を読んでいるユーザーには「連載作品の更新を知らせる通知」。期限付き作品を読んだユーザーには「あと何日で配信終了か教える通知」と言った風に、ユーザーの行動によってプッシュ通知の内容を変えました。これによりプッシュ開封率が120%改善されました。
色々紹介しましたが、まとめると「小さい施策は大前提。大きく変えないと数値は動かない」ということです。普段から施策を繰り返すのは当然ですが、勇気をもって大きな変更をしないと数字は動きません。また「同時に検証できる仕組みはエンジニアに土下座してでも整備すること」も大切です。A/Bテストでは、条件を揃えるためにもリアルタイムで検証できる仕組みは必須です。絶対にエンジニアに作ってもらいましょう。
パネルディスカッション
イベントの最後には、主催であるRepro㈱代表・平田さんがモデレーターとなり、登壇した4人によるパネルディスカッションが行われました。ぶっこみすぎる平田さんの質問に対しても、お酒片手にオープンに応える4人に会場が盛り上がる場面が多々ありました。
マンガアプリに新規参入したそれぞれの狙い
平田:2017年下半期に新しくアプリのリリースが予定されている中で、特に新規参入が多いのが「マッチングアプリ」と「マンガアプリ」なんですね。マッチングアプリは今、ロビー活動も成功していて、来年か再来年にはテレビCMも打てるようになり、政府が後押しするので、市場規模が5倍ぐらいに拡大するのが見えてるんですよ。
ただマンガアプリがこんなに新規参入が多いのはなんでかなぁと思っているので、それぞれなぜマンガアプリに参入企業が増えているのかお話を聞かせてもらえませんか。
樋田(マンガZERO):参入が多いとは言え、「大手出版社系」と「IT系」に分けられると思うんですよ。それで「IT系」は意外にそこまで参入していないんですよね。増えてはいるんですけど、どこもサクッとリリースしていて、本格的にプロモーションやブランディングも含めて参入しているのは「大手出版社」さんなんです。
また、大手出版社さんとIT系が参入する理由は違っていると思っていて、大手出版社さんが参入するのは次世代の読者を獲得したいというのが狙いなんです。それに対してIT系が参入しているのは「素早く稼げるんじゃないか」っていう噂を聞きつけて、っていう印象を受けています。「勝ちパターンが見えてきている」っている一説も聞いたことあるので多分そうじゃないかと。
平田:フーモアさんはどうですか?
斉藤(コミックエス):僕らはさっきの「素早く稼げる」っていうパターンですね。作品の一覧を持っている人と、マンガアプリを作っている開発会社の両方と仲がよかったので、これを合わせたらマンガアプリが作れるなって感じで。後発組だったので、運用体制もコンパクトにして稼ぎにいったって感じです。今後も投資はしていきますが、他社さんに比べてプロモーション等はほとんどしないと思います。
平田:マンガアプリといえばマンガボックスですが、どうでしょう?
安江(マンガボックス):先ほども話したんですけど、今電子書籍市場って年間30%成長しているんですね。30%成長している市場ってかなり魅力的ですよ。それもユーザーがどこからともなく湧いているわけじゃなく、全てではないとはいえ、一定数紙の漫画読者をリプレイスしているんです。そんな固い市場なら参入したい企業は多いですよね。
平田:comicoさんはどうですか?
大藤(comico):数年前に今と同じように「ゲームは儲かるんじゃないか」とゲームに参入した事業社さんが多かった時期がありました。それが、業界が成熟してしまって、今現在ゲームに参入しようと思うと、初期投資で普通に数億かかる様になってしまっています。それを考えると同じエンターテイメントの市場で、マンガアプリならゲームよりもかなりコストを抑えられる、という時期なので、参入事業者が増えているという側面もあるのではないかと思います。この業界もそのうち成熟してしまうと思うので、あくまで「今は」という見方も出来ると思います。
海外展開への各社の展望
平田:続いて、各社に海外の市場をどう狙っていくのかっていう話を聞いていきたいと思っているんですけど。comicoさんのところだと、海外のクリエイターの開発とか発掘もされていると思うんですけど、その辺りって既にスキームが確立されているんですか?それともけっこう泥臭いことやってるんですか?
大藤(comico):スキームは全然確立されていないです(笑)。そして、海外については泥臭いことをやるとこまでも全然進んでいないというのが現状です。胸を張っていえるくらい、作家獲得のスキームをはやく確立させたいですね。
平田:漫画家さんって海外だとまぁまぁいるんですか?
大藤(comico):まぁまぁいると思うんですが、まだそんなに多くないと思います。
平田:comicoさんはアジアから展開していきましたが、何か狙いがあるんですか?
大藤(comico):特に違いがあるってわけじゃないんですけど、アジアって好きなものとか比較的日本に近いじゃないですか。それで優先的にアジアに参入したといういうのはありますが、別に英語圏を避けてるってことはないですね。
平田:海外の視点っていうと、DeNAさんとか狙ってると思うんですが、どうですか?
安江(マンガボックス):マンガボックス以外にも、僕が手掛けている事業のなかで「MyAnimeList」っているサービスがあるんですよ。サービス開始してから7~8年経つサービスで、日本の方はあまり知らないと思うんですけど、アニメ・マンガのファンサイトなんですね。アメリカのサービスなので、ほとんどが海外ユーザーなんです。それで、MyAnimeListを今どんどんグロースさせているんですが、やはりユーザーがいるってことがすごく大きくて、今後マンガボックスと絡めていけたらなぁと思っています。
平田:そのサービスはいわゆる「アメコミ」的なものが多いんですか?
安江(マンガボックス):全然、日本の作品ばかりです。日本の情報がほとんど同時に翻訳されているんです。
平田:Nagisaさんとかは海外狙っているんですか?
樋田(マンガZERO):マンガとは少し離れてしまうんですが、まずはゲームなどで海外を狙っていこうと思っています。マンガに関してはまだノウハウも知見もない状況なので、具体的には決めていないですね。ただオリジナルマンガも徐々に始めている状況なので、それをローカライズしていくとか、マンガZEROを海外展開してくっていうのは将来的に考えています。
平田:少し話が戻ってしまうんですが、安江さんが考えるに日本と日本以外だと何倍くらい市場の差を感じていますか?
安江(マンガボックス):売上ベースでみると、断然日本の方が多すぎて話にならないんですけど、ユーザー数でみるとトントンになる可能性は全然あると思います。あとはどれだけマネタイズしていくという話かなと。
平田:多分、アプリ単体で稼ぐって話と、出版社さんが海外のファンを獲得したいけど自分達だけだと難しいから御社を頼るっている話もあると思うんですが、その辺はどうですか?
安江(マンガボックス):MyAnimeListに関していうと、日本の出版社さんの作品にユーザーが集まっているので、それはぜひ協力しながらやっていきたいと思っています。
平田:フーモアさんは海外展開とかは考えているんですか?
斉藤(コミックエス):私たちもコミックエスを海外展開したいと思っています。うちは乙女ゲームの主戦場が海外で、日本語でも英語でも両方出しているんですね。売上でいったら90%は海外っていう感じです。それで、いわゆる乙女ゲームって恋愛ものなんですけど、コミックエスも恋愛なので、全然狙える領域かと思っています。ただハードルがいくつかあって、出版社さんの許可がとれるかというところと、翻訳の審査が出版社さん含めて通るかというところを今調整しているところです。
平田:恋愛っていっても、いろんなジャンルの恋愛があると思うんですけど、そんな中でも英語圏でウケやすい恋愛のジャンルってあるんですか?
斉藤(コミックエス):「チャットフィクション(チャット型のケータイ小説)」って検索してもらえれば分かると思うんですけど、今海外でティーンにすごい流行ってるサービスがあるんですよ。そこで大流行しているのが、ノリが完全に海外ドラマで、自立したキャリアウーマンみたいな女性が、職場で恋愛をとるか仕事をとるかみたいな。そういう恋愛ストーリーが流行りやすいという傾向はありますね。
マンガ業界に必要な変革
平田:時間が残り少しなので、これを最後にしようと思うんですけど。これ個人的に聞きたかったことなんですが、マンガアプリって「先読み課金」が一般化してると思うんですが、あまりユーザービリティがよくないと思っているんですね。多分、出版社とか権利元との関係で、トラッキング(ユーザーの行動管理)とかマネタイズが返せるっていうメリットがあるとは思っているんですけど。そこで、事業者の立場として、もっと出版社とか権利元がここが柔軟になってくれればもっとWin-Winになれるのに、っていうアイディアがあれば聞きたいんですが。
斉藤(コミックエス):なに答えてもギスギスしそうですね笑 フーモアでいうと、課金に関してApp Storeの料率が厳しくてですね。その料率の調整というか、30%取られるっていう前提が譲歩される環境が整えばありがたいなって思います。
平田:App Storeに課金額の30%を差し引かれた後、出版社に〇%返すって形なんですか??
斉藤(コミックエス):そうですね。もちろん出版社によっても違うんですが、そういうところもあったりします。そうなると中々アプリがビジネスとして成長していかないっていうのはありますね。
平田:Nagisaさん的にはどうですか?
樋田(マンガZERO):事業者と出版社が一緒に新しいビジネスを作っていくっていう話になるんですが。これから新しいビジネスモデルとか見せ方が生まれてこないと、漫画サービスの進化って無いかなって思っているんですよ。「作品を保有する」っていう感情と「作品を消費する」っている感情は違っていると思っているんです。それぞれのアプローチで出版社さんからいろいろ許可を貰いながらトライできる場があればチャレンジしていきたいと思います。
平田:安江さんに大人な意見も聞いてみたいと思うんですが。
安江(マンガボックス):こと海外に関しては、定額で読み放題になるようなサブスクリプションモデルなどがこの後流行る可能性はあると思っています。動画でいえば「Netflix」や「Hulu」が流行っているので。しかし、国内に関しては全く別の意見で、単行本っていう文化がそんなすぐになくなることはないと思っていて、あと数十年は続くと思います。
逆にいうと、あんまりエピソード単位で売りまくるっていうのもリスクがあるっていうのが僕の持論なんです。エピソード単位でバンバン売るっていうモデルだと、長編のファンタジー作品が売りにくくなるんですよ。最初の3~5巻が面白くない作品って、名作の中にも全然あるじゃないですか。そういう作品が売れなくなるっているのはちょっと悲しいなって思います。そういう作品は扱わないってサービスも出てくると思うんですけど、マンガボックスでいうとあえてそういうことはしないっていう戦略をとっています。単行本大好き。
平田:最後、海外で成功しているcomicoさん、話聞かせてもらっていいですか。
大藤(comico):これはcomicoというより私個人の意見なのですが、日本のマンガ事業者がグローバルで勝つためにどうしたら良いかって事を考えたいんです。日本の企業が勝つことが全て正義かというとそういうわけでもないんでしょうですけど、自身がやっぱり日本のマンガで育った世代ですので、日本の事業者として勝ち抜きたいです。そんなとき、ALL JAPANで戦っていかないと、成長著しい中国のプレイヤーとかに押されてしまうのではないかと思っています。そのために、協力出来る部分がある事業社さんと共に、様々な事に挑戦をしてゆきたいと考えています。
まとめ:競合ではなく協合していくマンガアプリ業界
パネルディスカッションの後は懇親会もあり、大盛況の中に幕を閉じたGrowth Hack Talks。今までも業界ごとのイベントに参加したことはありましたが、ここまでオープンなイベントは無かったように思えます。
マンガアプリは基本無料という特性上、特定のアプリに絞らず複数のアプリをダウンロードして利用されるという特徴があります。Aのアプリで一日に無料で読める分が終わったからBのアプリ、制限いっぱいまで使ったら完全無料のアプリという風に。
動画配信や音楽配信サービスなど、エンタメのコンテンツサービスの場合は、競合ではなく自社のサービスを選んでもらうために必死ですが、マンガアプリ業界にはそのような殺伐とした雰囲気は感じられませんでした。コンテンツの充実度やアプリの質など、良いアプリさえ作っていれば他のサービスと争う必要はそこまでないのでしょう。
しかし、今は可処分時間の奪い合いの時代。競合は同業種だけではありません。動画やSNSなど、時間を使う全てのサービスがマンガアプリの競合とも言えるでしょう。
また、パネルディスカッションでは海外展開の話がありましたが、逆に海外のサービスが日本に上陸してくる可能性もゼロではありません。漫画という文化は日本のものでも、comicoで有名になった縦読みマンガはもとは韓国のものです。今は日本の事業者しかいないマンガアプリ業界も今後はどうなるかはわかりません。動画業界でも音楽業界でも、海外のサービスが日本に上陸した途端に業界構造がガラッと変わるタイミングがありました。自動車業界ではGoogleやテスラに対抗するために、マツダとトヨタが資本提携にまで踏み切っています。
漫画という日本の文化をより盛り上げていくためにも、事業者同士はもちろん、コンテンツホルダーである出版社なども巻き込んで、より面白い業界にしていって欲しい。そんなことを考えさせられるイベントでした。