近頃、多くのIT企業がマンガアプリ事業に参入しており、2013年くらいから数多くのマンガアプリがリリースされてきました。
マンガアプリと聞くと過去の名作を無料で読めるサービスをイメージする人が多いと思いますが、オリジナルコンテンツにこだわっているマンガアプリがあるのを知っていますか?その中の一つが黎明期から人気を博す「GANMA!」です。
今回は「GANMA!」を運営するコミックスマート(株)取締役の上河原(かみかわら)さんに、GANMA!の立ち上げ秘話や戦略について聞いてきました。娯楽サービスの競争が激しい現代、累計700万ダウンロードを突破し多くのファンに愛されるGANMA!の強さの秘密はなんなのでしょうか?
GANMA!の基礎情報
インタビューに入る前に、GANMA!がどんなサービスなのか、どんな会社が運営しているかを簡単に説明します。
GANMA!(ガンマ)は2013年にリリースされたマンガアプリで、「ガンマで、マンガを、ガマンしない」のキャッチフレーズ通り、制限なしで読み放題のマンガアプリです。90作品以上が掲載されており、その多くがオリジナル作品で、マンガ家の支援プログラム「RouteM(ルートエム)」で契約している漫画家の作品です。
GANMA!とRouteMを手掛けるのはコミックスマート株式会社。インターネット広告事業を中心に、メディアコンテンツ事業も手掛けるセプテーニグループの会社として、2013年に設立されています。コミックスマートの代表取締役は、セプテーニグループの代表取締役が兼任しており、メディアコンテンツ事業の中でも最も注力している事業です。
ちなみにセプテーニグループの社是は関西弁で「知恵を出そう、工夫しよう」という意味の「ひねらんかい」。紙コップにも浸透しています▼
GANMA!の強み~マンガ家支援プログラム「RouteM」~
まずはGANMA!が他のサービスとどう違うのか、その強さの秘密についてコミックスマート(株)取締役の上河原さんに聞いてみました
Q. 早速ですが、GANMA!が他のマンガアプリと差別化されている点はなんなのでしょうか?
一番の差別化は、弊社がGANMA!と並行して手掛けているマンガ家支援プログラム「RouteM」です。RouteMは漫画家にとってのベンチャーキャピタルのようなもので、漫画家さん達が創作活動に専念できるよう、「ヒト・モノ・カネ」を提供しています。担当編集者がつきますし、漫画制作に使うタブレットも無償レンタルしています。また、漫画家のステージに応じた制作支援金を月額で提供しているので、安心して創作活動に励んでもらっています。
マンガアプリはコンテンツビジネスなので、本質的に大事になってくるのはコンテンツの質と量です。RouteMでの支援のもと、そのコンテンツの担い手である漫画家さん達と二人三脚で作品作りに取り組むことで、魅力的な漫画を多数掲載できているのが、GANMA!の一番の強みだと思っています。
Q. 漫画家さん達はどのようにスカウトされているのですか?
漫画家との出会いは様々です。マンガ賞などのコンテストを開催し、応募してきてくれる人もいますし、全国各地で開催されている漫画のイベントに出張編集部として赴くこともあります。他にも漫画の専門学校と組んで、GANMA!掲載に向けたカリキュラムも組んでいます。現在RouteMでは約100名の漫画家を支援しています。
Webマンガならではの面白さを追求していく
Q. 漫画家への支援が本当に手厚いですね。既存の紙の漫画とWebマンガでは様々な状況が違うと思うのですが、作品作りで気を付けていることはありますか?
漫画事業を始めるにあたって、これまでの漫画の歴史や成功例を研究・分析もしましたが、漫画を楽しむ環境や可処分時間の過ごし方が変わってきているので、従来の成功パターンがそのまま通用するわけではありません。GANMA!は、スマホに最適化した作品作りを心がけています。
たとえば小さいスマホの画面でも見やすいように、コマやセリフのボリュームを調整したり、セリフのフォントを変えたりと視認性を上げるために研究しました。どんなにいい作品であったとしても見づらければ意味がありませんから。
Q. IT企業のグループ会社として立ち上げられていますが、漫画編集の知識はどのように高めていったのですか?漫画業界出身者を採用したのですか?
今では漫画業界の人も採用していますが、立ち上げ当初はネットマーケティング事業出身の社員で編集業務を行っていました。セプテーニグループ代表の佐藤がコミックスマート(株)の代表兼編集長も務めているのですが、佐藤がマンガの造形が深く、月に数百タイトルもの作品を読んでいます。なので、はじめのころは佐藤自身がメンバーに漫画編集の作法を指導し、現場で新人漫画家との打ち合わせもしていました。今ではネットマーケティング事業出身の者と、出版社出身の人間で構成されるハイブリッドな体制です。
Q. 出版社出身の人間がジョインしたことで、はじめの頃と変わった部分はありますか?
長年漫画家と付き合ってきた人たちが入ってきたことで、コミュニケーションが変わりましたね。漫画作りにおける指導の幅も広がりましたし、編集者と親しい漫画家さんも多いので、新たに入社する編集者経由で漫画家との繋がりもできました。
Q. Route Mでは漫画家も社員のように、評価があると聞きましたが?
「ユニークユーザー数」「PV数」など読者さんからの支援を軸に評価しています。それ以外にも、GANMA! が得ている広告収益の一部を還元するといったようにマンガ家支援の仕組みは定期的にリニューアルしています。
「リセット・ゲーム」はGANMA! に掲載されている100を超える作品の中でランキング上位の常連です▼
例えば、作品の終わりに「あとがき」のページがあるのですが、そこで読者と掛け合いをして心をつかんでいる漫画家もいます。
コメント機能に投稿された読者の質問に答えてコミュニケーションを密接にしたり、エッセイ形式のマンガを掲載することで作家自身に多くのファンがついたりもします。▼
あとがきに漫画を入れる漫画家もいます▼
どんな戦略をとるかは漫画家によって様々です。
読者とのコミュニケーションが大切
Q. 漫画家との関係性をとても大事にされているのですね。次にビジネス、収益性といった面でのGANMA!の強みについても聞かせてください。
GANMA!は広告収益モデルのビジネスですが、グループ会社であるセプテーニはネット広告のプロフェッショナルなので、広告の商品設計やクリエイティブ表現も強みの一つです。
例えば、私たちは「広告も一つのコンテンツ」だと考えているので、読者に楽しんで頂けるような広告作りに注力しています。GANMA!ではコンテンツを楽しみに訪れた読者のユーザー体験と、ビジネスとして顧客である広告主様のバランスを大事にしており、そのため広告クリエイティブも社内で制作しています。
Q. 確かにGANMA!の広告は特徴的ですよね。読者のストレスにならない広告の具体的な施策はありますか?
例えば、GANMA!では作品が終わったあとに読者が自由にコメントできるページがあるのですが、その中にお絵かき投稿といって、画面へのタッチで描いたイラストを投稿できるユニークな機能があります。
そしてこのコメントページにも広告が入っているのですが、お絵かき投稿のイラストのサイズと同じ、ネイティブなフォーマットにしています。イラスト投稿の間に流れてくるので、ストレスなく広告も楽しめる仕様になっています。
Q. 読者とのコミュニケーションにとてもこだわっているんですね。GANMA!はアプリストアでの評価も高いですが、そこにも影響しているのですか?
そうですね、こうした工夫がありがたく読者の皆様からの支援につながっているのかもしれません。また、読者から寄せられるアプリや作品に対しての意見も大事にしています。アプリを運営していると必ずしも良いコメントばかりではありませんが、一つひとつのコメントに真摯に対応することで、GANMA!アプリの評価も上がってきました。バグがあるなどの報告をもらった時は、改善して必ず報告するようにしています。地道ですが、そういう日々のカスタマーコミュニケーションの結果が現在の評価につながっていると思っています。
GANMA!の目指すところ~GANMA!というブランドの確立~
他のマンガアプリをどう分析し、今後何を目指していくのかについて伺いました。
Q. 大手出版社のマンガアプリは軒並み上位にランクインされていますもんね。逆にマンガアプリの他にもベンチマークしているサービスはありますか?
今のアプリは可処分時間の奪い合いになっているので、全ての娯楽アプリが競合といってもいいですね。その中でも広告ビジネスで収益を上げているサービス、そして各SNSも競合と言えます。そんなサービスの中で、1分1秒でもGANMA!に時間を使ってもらえるようにしなければいけません。
面白い漫画を掲載し続けるのが本質ですが、コンテンツだけでなく漫画を楽しんでもらう仕掛けもサービスとしては力を入れていきたいですね。読者同士や、漫画家と読者のコミュニケーションを喚起するような。他のマンガアプリや娯楽サービスとの差別化を図っていきたいですね
Q. 広い視野で市場を分析しているんですね。最後にGANMA!の目標や目指しているところについて聞かせて下さい。
サービス立ち上げ時からの目標ですが、「マンガ家を、子供達の憧れの職業にしたい。」です。一つの職業として、夢を見るだけでなく、しっかり生計を立てられるような仕事にしたいです。
今後、まずはRouteMから年収3,000万円を稼ぐ漫画家を輩出したいですね。なぜ3,000万円かというと、子供が憧れる職業に野球選手がありますが、プロ野球選手の平均年俸が約3,000万円ほどなのです。しっかり稼げる仕事として子供の憧れになってほしいと思っています。
そのためにGANMA!というブランドをしっかり作っていきたいです。「GANMA!」というブランドが好きで連載したいと思ってくれるようなサービスにしたいと思っています。
ありがとうございます。インタビューはこちらで終了させてもらいます。これからGANMA!で面白い漫画が読めるのを楽しみにしています。
GANMA!新人マンガ賞2017の授賞式に参加させて頂きました
なんとインタビュー当日に「GANMA!新人マンガ賞2017」の授賞式もあり、そのまま取材へ。大賞を取った「ラルヴァ」の作者・たかち こり先生と、準入選となった「無貌のカフェ店員」の作者・亜希乃千沙(あきの ちさ)先生が表彰のために参加していました。
表彰式には編集長の佐藤社長が直接、賞状を読み上げていました。
大賞の「ラルヴァ」は、賞金100万円を獲得し、さらに副賞によりヴォイスコミック化(セリフの読み上げと効果音が入った漫画)が決定しています。式の中で最初の3分ほどを見せてもらいましたが、声優さんの声がキャラクターにマッチしていて違和感なく見ていられました。GANMA内で9月16日まで期間限定で視聴できるようです。
表彰式の後は受賞した先生2人にも話を聞きました。印象的だったのは大賞をとった、たかち こり先生がGANMA!を選んだ理由として「支援金が毎月支給されて新人漫画家への支援が手厚いから」と言っていたことでした。たかち先生は漫画家以外の道へ進むことも考えていたそうですが、収入が安定するGANMA!だからこそ、安心して漫画家の道を選べたそうです。
このエピソードこそ、「マンガ家を、子供達の憧れの職業にしたい。」という理念の象徴のように感じました。
【まとめ】読者もマンガ家も、ガンマでマンガをガマンしない!
今回のインタビューで一番驚いたのは、「マンガアプリ」よりも先に「マンガ家支援事業」の構想が先にあったという話でした。マンガアプリの中には独自のコンテンツを作るために、漫画家を抱えているところは他にもありますが、GANMA!の漫画家への投資の手厚さに非常に驚きました。
小さい時に漫画家に憧れながらも、夢半ばで諦めた人はどのくらいいるのでしょう。せっかく雑誌に掲載されても、人気がでなければすぐに打ち切り。毎週迫ってくる締め切りに身体を壊す人もいると聞きます。
今はインターネットやSNSなどが発達して、副業で漫画を描く人は増えてきましたが、プロとして描いていくと決心するには相当な覚悟が必要でしょう。GANMA!であれば、もちろん才能と努力が必要でしょうが、生計を立てる仕事として視野に入るはずです。これまでのシステムでは諦めていた漫画家という夢が、GANMA!によって救われる人も出てくるでしょう。
GANMA!のおかげで、夢ついえるはずだった漫画家の作品が世に出回ることになれば、読者にとっても漫画家にとってもハッピーなことです。今後、読者にとっても漫画家にとっても「マンガをガマンしないガンマ」であり続けて欲しいなと思いました。
左:インタビュアー・執筆者 鈴木、右:コミックスマート(株)取締役 上河原氏