日本初の格安SIM「b-mobile」その知られざるMVNO誕生秘話

2017年現在、200種類以上の格安SIMが登場していますが、日本で最初の格安SIMをご存知ですか?

意外と知られていないですが、日本初の格安SIM「b-mobile(ビーモバイル)」を作ったのは、Appleの日本法人「アップルコンピュータ」の元社長です。

今回は格安SIMの歴史を語る上では欠かせない、日本通信の「b-mobile」について紹介していきます。あまり聞いたことのないブランドかもしれませんが、格安SIM業界の草分け的存在なのです。

この日本通信の「b-mobile」について知れば、格安SIMの歴史を知ることができます。そんな格安SIMのパイオニアについてお伝えします。

b-mobileとは?

b-mobileとは日本で最初にMVNO事業を開始した、日本最古の格安SIMブランドです。

日本通信がドコモから回線を借りてサービス展開をしています。使ったデータ通信の量に応じて料金が変わる「おかわりSIM」と大容量の「25GB」というシンプルなプランを提供しています。

b-mobileを作った日本通信は格安SIMの仕掛け人?

b-mobileは日本通信という会社が立ち上げた格安SIMブランドです。楽天やLINEといったメジャーな企業が参入している格安SIM業界では、あまり聞きなれない会社だと思います。

しかし、この日本通信の創業者、三田聖二氏こそが格安SIM、正式にはMVNOの事業モデルを考案したのです。

創業社・三田聖二氏の経歴

日本通信の創業者の三田氏は、父親が商社マンだった影響で8歳からアメリカで教育を受けています。

その後、北米の鉄道会社と金融関係の会社でキャリアを積んだ後、通信機器会社のモトローラ時代に、ケータイの市場開放交渉の責任者として日本へ帰国しました。

日本に帰国してモトローラを退職したあとは、Appleの日本法人「アップルコンピュータ」の社長に就任しました。

ところが、Appleとウマが合わず、経営方針を巡り1年で解任となります。Appleを離れた後の三田氏は、アメリカのIT企業からCEOのオファーを受け、アメリカに戻るつもりでした。

ですが、郵政省の幹部に挨拶をした際に、「日本のモバイル業界で変革を起こせ」と心に火をつけられました。それにより、IT企業からのCEOのオファーを蹴り、日本に残って志の実現【携帯電話のインテグレーター】に専念することに決めたのです。

世界初のMVNO誕生の影にも三田氏あり

通信事業者から設備を借りてサービスを提供するという「格安SIMの仕組みの源流」となる構想を思い描いていた三田氏。

世界初のMVNOと言われるイギリスの「ヴァージン・モバイル」も、創業者のリチャード・ブランソン氏が、飛行機で隣り合わせた三田氏の話から事業のヒントを得たというエピソードがあります。

設備を借りてサービスを提供するという事業モデルは世界的にも大きな注目を集めました。

当時のイギリスの電子通信庁が、このヴァージンモバイルの事業モバイルを説明するために、「MVNO(Mobile Virtual Network Operator)」と使ったのがMVNOという言葉の誕生と言われています。

直訳すると「仮想移動体通信事業者」簡単に言うと「携帯事業者から通信設備を借りてサービス提供している業者」という意味です。

日本でのMVNOの幕開け

日本の通信革命のために奔走した三田氏。通信革命が成功すれば、日本でも「ヴァージン・モバイル」のように通信サービスを展開できる。

しかし、通信革命達成までの道のりは過酷なものでした。

本格的なMVNOサービスの構想はできていたものの、肝心の携帯電話事業者が設備の貸し出しを受諾しなかったのです。

一向に設備を貸してくれない携帯電話事業者にしびれを切らした三田氏は、自ら携帯電話事業者を買収して設備を貸し出すことに。

2001年にアメリカのファンドと共同で、当時伸び悩んでいたツーカーグループとDDIポケット(後のウィルコム)の買収を提案。

買収には至りませんでした。しかし、買収提案で繋がりができたDDIポケットが、自社のPHS無線ネットワークを日本通信に貸し出すことを決定したのです。これが日本で初めてのMVNOとなります。

この出来事は日本初のMVNOの誕生という以外に、世界的にも大きな意味を持っていました。それまでのMVNOは、通信事業者の既存サービスを売る販売代理店のようなものでした。

しかし日本通信では携帯電話事業者から「帯域そのもの」を借りて、有効利用する事業モデルを構築しました。これにより、自社でオリジナルサービスを自由に提供できるようになりました。

総務省を巻き込んで日本の通信業界をさらに切り開く

日本にMVNOという事業を誕生させた日本通信ですが、自分たちが思い描いていたほど市場は盛り上がりませんでした。

当時の大手キャリアはPHS無線より速度の速い3G回線でのサービスを提供していました。しかし、どの大手キャリアも何かと理由をつけて回線を貸そうとしません。

そんな状態の市場を見かねた総務省は、いくつかMVNOの参入を促す施策を出しました。その中でも大きな力を発揮したのが、2007年に全面改訂された「MVNO事業ガイドライン」。

このガイドラインによって、通信事業者は他の事業者から回線を貸すよう要求を受けた場合、不当な理由がない時以外は回線を貸すことになりました。

その結果、大手キャリアと交渉をしてきた日本通信はついにドコモの回線を借りることに成功したのです。

通信設備の解放は日本通信と総務省が二人三脚で実現したとも言えます。

格安SIMブームの火付け役として業界を先導していく

NTTドコモとのネットワーク接続ができるようになった日本通信は3GやLTEを使ったMVNOのサービスを続々と発表しました。

2010年には初となるSIMカード単体のサービス「b-mobile SIM U300」を展開。

さらに、翌年2012年にはイオンと提携して今の格安SIMの原点ともなる「イオンSIM」を発表し、マニアな人たちの間で話題を集めました。

イオンSIMが皮切りとなり、様々な企業が格安SIM業界に参入してきます。今では格安SIMの老舗ブランド「IIJmio」も「イオンSIMを見て、個人向けのMVNOサービス業界に参入した」と打ち明けています。

さらに日本通信は、2014年に再びイオンと組み「格安スマホ」の源流となる「イオンスマホ」を発表しました。

倉庫に余らせていたスマホを活用し、SIMとスマホのセットで月々の支払いが2,980円という驚異のサービスを作り上げました。

今や200社を超える企業が参入している格安SIM業界の礎を築いたのはこの日本通信だったのです。


参考:「格安スマホの仕掛け人たち」-Amazon

現在のb-mobileの状況

現在の日本通信はb-mobileの事業には力を入れていないようです。そのため、b-mobileは、格安SIM業界でも少し特殊な立ち位置にいます。

個人向け事業はU-NEXTと協業

日本通信は、2016年に「U-Next」という会社と協業することを発表しました。実質的な運営はU-Nextが行い、日本通信は技術的なサポートに専念しています。

今後はパートナー企業とともSIM事業をサポートして発展させていく「MSEnabler(モバイル・ソリューション・イネイブラー)」という役割に転換しました。なんだが長い名前ですね。

「U-mobile」を運営しているU-Next

b-mobileを運営するU-Nextは自社でも「U-mobile」という格安SIMブランドを展開しています。U-Nextは日本通信の他にfreebit、IIJという会社からも技術的なサポートを受けてサービスを展開している、格安SIM業界でも珍しいマルチMVNEです。

b-mobileが提供しているサービス

現在はU-mobileと一緒に運営をしているb-mobileですが、以下のようなサービスを提供しています。参考までに紹介しますが、どのサービスも他社のサービスに比べてイマイチです。

500円から利用できるおかわりSIM

500円~から利用できるプランです。1GBから1GBごとにプラン設計されているので、月ごとに使うデータ量が違う人でも利用しやすいです。使える機能も「データ通信専用」「SMS付き」「音声付」の3種類から選べます。それぞれの料金は次の通りです。

データ通信専用 SMS 音声通話
1GB 500円 630円 1,300円
2GB 750円 880円 1,550円
3GB 1,000円 1,130円 1,800円
4GB 1,250円 1,380円 2,050円
5GB 1,500円 1,630円 2,300円

たっぷり使える25GB定額

速度制限を気にしないで、高速データ通信を利用したい人向けの大容量25GB。

大容量の割には低価格です。「データ通信専用」「SMS付き」「音声通話付き」の3種類から選べて、次の値段設計で利用できます。

データ通信専用 SMS 音声通話
2,380円 2,510円 3,180円

規定のデータ容量を使い切ったときも、アプリ上で追加のデータ容量を300円/100MB、1,200円/500MBでチャージできます。

チャージしたデータ容量は有効期限が90日間あります。チャージした分の料金は随時請求されます。

ただし、高速通信データチャージ料としては、1GBあたり1,000円でできるところもあるため、割高です。

ガラケー用の携帯電話SIM

いわゆる「ガラケー」で利用できる格安SIMです。データ通信が付いてないので、電話のみできればいい人向けです。

S M L
料金 1,290円 2,290円 3,710円
通話料 20円/30秒 18円/30秒 14円/30秒
無料通話分 1,300円
(最大32.5分)
2,700円
(最大75分)
5,000円
(最大178.5分)

ただし、ガラケーの場合はスマホと違って大手キャリアで契約をしても、料金が高額にはならないので、格安SIMの恩恵を受けにくいです。

データ量使い切りのプリペイドSIM

b-mobileでは通常の格安SIM以外にもプリペイドSIMのラインナップも用意しています。

「短い期間だけ、SIMを利用したい」という人は利用してもいいでしょう。

ただ、月の途中で規定のデータ容量を使い切っても、追加チャージができないので注意が必要です。チャージできるのは翌月のデータ量のみです。

プリペイドSIMには以下の種類があります。

毎月5GBのプリペイドSIM

月に5GB利用できるプリペイドSIMです。購入できるのは1カ月間の他に6カ月間、12カ月間のプリペイドも買えます。

6ヶ月、12ヶ月のSIMを買っても月の途中で5GB使い切ってしまうと、月末まで低速通信に切り替わります。

規定の期間が過ぎても利用期間から10日以内にチャージを行えば継続して利用できます。プリペイドSIMとチャージ料金は次の通りです。

非常に高額なので、使い道はあまりないかもしれませんね。

1カ月間 6カ月間 12カ月間
料金 3,380円 17,315円 29,445円
チャージ料金 2,871円 14,723円 25,000円

ポケモンGO用のゲームSIM

『Pokemon Go』のみが利用できるSIMです。

お子さんにゲームはさせてもいいけど、有害サイトなどを利用されたくないという親御さんにはいいかもしれません。最初のみ1,500円で購入して、その後チャージできます。

500MB利用するか、1カ月経つと利用できなくなりますが、利用期間終了から10日以内に500円で1GBをチャージすればまた利用できます。

ただし、こちらも現在は、DTIやFREETELといった他社の格安SIMが同様のサービスが提供しています。

また、使い続けるためには、頻繁にチャージが必要なので、わざわざ契約するメリットは無に等しいです。

強いてメリットを挙げるなら、ポケモンGOだけしか使えないので、子供が違法なサイトを見なくて済むことくらいでしょう。

訪日外国人向けのVISITOR SIM

日本へ旅行しにきた海外の人向けのプリペイドSIMです。

空港で受け取れて、21日間利用できます。3,480円で5GB利用でき、容量を使い切った後は500円1GBのチャージ可能です。

ただ追加チャージした分は、わずか1日しか利用できないので不便です。外国人の友達が日本に遊びに来る時には教えてあげてもいいかもしれません。

b-mobileのデータ通信

日本で最初のMVNOということで、「通信速度はどうなの?」と気になるかもしれません。b-mobileの通信速度はどんな感じなのでしょうか?

上りは悪くないが、下りの速度が遅い

実際にb-mobileを契約して計測してみたら、上りはストレスを感じないレベルの速度が出ました。ところが下りの速度は他の格安SIMよりもだいぶ遅いです。

サービスの提供元の日本通信自身は、現在b-mobileの事業に力を注いでいないので、通信速度の改善をどんどん行なっている格安SIM事業者に比べると通信速度が劣るようです。

高速通信のON,OFFができる「Turbocharge」

日本通信が開発した高速データ通信のON/OFFを切り替えるアプリです。普段は低速通信でも問題ないという人は、高速データ通信をOFFにしていれば高速通信のデータ量を節約できます。

通話料が安くなる「b-mobile電話」

「b-mobile電話」というアプリを利用すれば、通常20円/30秒の通話料金を10円/30秒に抑えることができます。

月額無料で申し込みも不要なので、通話料金を抑えたい人は利用してもいいでしょう。ただし、「b-mobile電話」のアプリから電話をしないと割引にはならないので、注意が必要です。

通話3分定額オプション

月額500円で1日50回まで3分以内の電話が無料になるオプションです。3分の電話を月に9回以上するという方は元がとれる計算です。短い電話を何度もかけるという人は申し込んでもいいでしょう。

次はソフトバンクのMVNOに

格安SIMの黎明期にはドコモと交渉を繰り返してきた日本通信は、今はソフトバンクの回線でMVNOサービスを展開予定です。

「日本通信が提供しているSIMをソフトバンクのSIMロックがかかっているスマホでも利用可能にして」と2015年8月から交渉をしていました。総務省の立ち合いもあり、ついに2017年2月1日、日本通信の要望が通る結果となりました。

これまでのほとんどのMVNOがドコモの回線を借りていた一方で、ソフトバンクの回線を使っていたのはワイモバイルくらいでした。※ワイモバイルは厳密にはMVNOではない。

ソフトバンクの回線を使ったサービスの詳細はまだ発表されていませんが、ドコモに市場開放を突き付けた日本通信は、今度はソフトバンクの門戸を開いたようです。

【まとめ】日本通信の理念と魅力

日本の格安SIM事業のパイオニアだった日本通信ですが、今では後続のMVNOよりも機能的にもサービス的に見劣りする印象があります。

2002年から三田氏の右腕として会社を引っ張てきた現社長、福田氏も「今の格安SIM市場でアクセルを踏んでも空回りするだけ。携帯大手各社の音声定額サービスに対抗する手段もない。格安SIMを第4の勢力として伸ばすための武器が整っていない」と語っています。

にも関わらず、ソフトバンクとは交渉を重ね、ついにソフトバンク回線の開放を実現させました。

日本通信は、自社のサービスのためだけではなく、モバイル業界全体がより良くなるよう奔走している印象を受けます。そしてそれは、間接的に、我々個人もその恩恵を受けているのです。

格安SIMとしての「b-mobile」の魅力は薄いですが、日本通信という会社の理念・方向性・未来には今後も目が離せません。

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